目次に戻る

オリジナル盤もどき調理法
CD Programming Guide For "Original" Lovers
【2000.05.18.】


 
編集盤CDから、「オリジナル盤もどき」をでっちあげるための曲順プログラムを紹介します。
いろんなソースが混ぜ合わされた編集盤から、混ぜ合わされる前のソースを取り出してみようというわけです。
オリジナル盤が簡単に安く手に入るのなら、それに越したことはないのですが、なかなかそういうわけにはいきません。
まずは、できるところから、曲順だけでも、それなりに。


第2回 アンソニー・ムーアの "OUT"

[概略]
実験音楽作家として活動していたアンソニー・ムーアは、旧友のピーター・ブレッグバッドと、1972年にポップバンドを結成する。
バンド名は、スラップ・ハッピー。デューク・エントン楽団のレパートリーにちなんだものなのだろうか。
ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』の中で、それをかける場面があったように記憶しているのだけど、どこでかは覚えていない。
ポップバンドをやることは、最初はちょっとした遊びのつもりだったらしいけど、歌手のダグマーを加え、本格的に取り組むことになる。
アルバム2枚とヘンリー・カウとの共作2枚を発表したのち、1975年にダグマーが脱退して、ヘンリー・カウに移籍。
残った二人で、スラップ・ハッピー名義のシングル "Johnny's Dead" を発売するものの、それを最後にスラップ・ハッピーは解散する。
1976年に、アンソニー・ムーアが、ソロアルバムとして制作したのが、"OUT" である。
先行シングルとして、ペリー・コモのカバー "Catch A Falling Star" がシングルとして発売され、見本刷と試聴用テープもできていた。
しかし、何故か、アルバムの発売は見送られることに。"OUT" は「幻のアルバム」になってしまった。

カパーの見本刷と試聴用テープを持っていた阿木譲氏は、当時、自分の雑誌「ロック・マガジン」で、盛んに取り上げていた。
自慢しているとしか思えなかったけれど、おかげで、カバーデザインと曲目だけは知ることができたので、感謝すべきだったかもしれない。
彼によれば、そのカバーに写るムーア氏の右目のまわりが暗いのは、酒場で飲み代が払えなかった代償で作った痣のせいらしい。
ほんまかなー。判官贔屓のつもりか、阿木氏は、ムーアさんにシンパシーを感じて、この話を紹介しているようなのだけど、出典不明です。
(逆に、ダグマーさんのことは嫌悪していて、のちに、インタビューで、しょうもない質問を却下され、逆ギレしている。)

幻のアルバムが日の目を見たのは、発売中止から21年たってから。ヴォイスプリントから突如発売された。
ただし、カバーデザインは変更されて、簡単なものになってしまい、ちょっと残念。
予定されていた元のカバーデザインは、「レコード・コレクターズ」1998年11月号のカラーページに掲載されている。
どうせなら、CDジャケットサイズで掲載して、切り取ってそのまま使えるようにしてくれたらよかったのに。
(切り抜き用にもう一冊ずつ売れたかもしれない。)
先の阿木氏が紹介しているエピソードは、ひょっとしたら、そこに掲載されているインナーシートに書かれているのかもしれない。
「レコードコレクターズ」誌では、小さくて読めないけれど、なにやらいっぱい書いてある。何が書いてあるのかも紹介してほしかったな。

柔らかな陽の光を感じさせる、明るい色彩のカントリー調サウンドは、ジョン・ケイルの "PARIS 1919" を思わせる。
サードアルバムの "DESPERATE STRAIGHTS" 収録曲と同じ感触の曲もあるけれど、演奏はほのぼのとしている。
(このほのぼのしていながら、どこか眩惑的な空気は、ムーアさんが制作したケヴィン・エアーズの"RAINBOW TAKEAWAY" にも通じる)。
20年もかかってしまったけれど、発売されて、ほんとうによかった。

●参考資料
・阿木譲 「音楽は灰皿にマッチを落とすのと同じ その程度の意味しかない」 「ロック・マガジン」 13号(1978年4月) (フランスの酒場で100ポンド請求された話を紹介)
・「ロック・マガジン」 26号(1979年8月) (レコードカタログのコーナーで、発売されていない "OUT" を紹介している)
・「Discography of Henry Cow/Slapp Happy」(1982年7月) (十字屋・京都三条店が発行したタイプ打ちのコピー誌)
・豊田誠司 「最低傑作選」 「3ちゃんロック」創刊号(1988年8月) (「唯一の欠点はこのアルバムが発売されなかったことである」)
・小山哲人 「遂に発掘されたアンソニー・ムーアの究極のレア作品」(連載 File beyond POPULAR) 「レコード・コレクターズ」 1997年10月号
・小山哲人 「アンソニー・ムーア『アウト』、幻のテスト盤の真相」(連載 File beyond POPULAR) 「レコード・コレクターズ」 1998年1月号
・「レコード・コレクターズ」 1998年11月号 (スラップ・ハッピー特集: ピーター・ブレッグバッドへのインタビュー、ディスコグラフィ、ソロ活動)
 

[メニュー]
「幻だった」アルバム "OUT" のオリジナル仕様(?)と関連シングル
 

[材料]
Anthony Moore "OUT"(Voiceprint VP165CD)  1997年発売
 

アルバムは、当時、発売中止になってしまいましたが、アルバム収録曲から、シングル盤が2枚、発売されています。
ただし、B面はいずれも、シングル盤のみの発売なので、ボーナストラックとして収録してほしかった。
"Mr. Rainbow" は、1974年のセカンドアルバム "SLAPP HAPPY" に収録されていた曲ですが、再録音バージョンとのこと。
 

a. Johnny's Dead single Virgin VS 124 (as Slapp Happy featuring Anthony Moore, released: 7/1975)
cd-program: 7-(not included on cd)

A) Johnny's Dead
B) Mr. Rainbow


b. Catch A Falling Star single Virgin VS 144 (released: 4/1976)
cd-program: 11-(not included on cd)

A) Catch A Falling Star
B) Back To The Top


●●

カバーの見本刷から、オリジナル盤(?)の曲順を再現してみます(見本刷の曲順が最終決定とは限りませんが)。
と言っても、現在発売されているCDとほとんど変わりません。後半の曲順を少しいぢるだけで、できあがりです。
試聴用カセットが、この見本刷の曲順になっていたかどうかは不明。
最後の曲は "The Pilgrim" ですが、わたしは、"Wrong Again" を最後にもってくるCDのほうが気に入っています。
 

A.  "OUT" LP version 1 (Virgin V2057 / unreleased)
cd-program: 1-2-3-4-5-6 / 7-8-11-12-9-10

A)
1. Stitch In Time
2. A Thousand Ships
3. The River
4. Please Go
5. You Tickle
6. Lover Or Mine

B)
7. Johnny's Dead
8. Dreams Of His Laughter
9. Catch A Falling Star
10. Wrong Again
11. Driving Blind
12. The Pilgrim

●●●

このCDを店頭で見たとき、ほんとうに、あの "OUT" なのだろうか、と半信半疑でした。
カバーデザインはちがうし、外側に曲目がまったく書かれていないので、確かめられなかったからです。
買って帰る電車のなかで、はやる気持ちを押さえきれなくて、ブックレットを開いてみた。
「あー、これや、これや」といくつか覚えのある曲名があるのを見たときは、ほんとにうれしかった。

ところが、帰宅して、早速プレイヤーにかけて、聞いていると、何かおかしい。
ふんふんふんと聴きながら、曲目を確認しようとしてブックレットを見てみると、思ったタイトルとちがっている。
トータルアルバムでは、同じ詞のモチーフが繰り返し使われることもあるので、これもそういうものなのかもなー。
そう納得しかけたところに始まった8曲目のはずの "Johnny's Dead" でハッと我に返った。見ると、7曲目の表示。やはり、ちがう。
そこで、とりあえず、通しで聞くのを中断して、1曲目から念入りに歌詞を聞きながら、正しい曲名を確定することにしました。
その結果が、下記の「材料の内訳」です。

調査結果を、当時よく出入りしていたニフティサーブのある会議室で発表しました。こう思うのだけど、どうでしょうか、と。
そうしたら、間もなく、レスポンスがあり、既に発売されている日本盤ではきちんと訂正されていますよ、とのこと。
訂正内容と調査結果が合致していたのにはホッとしたけれど、肩の力が途端に抜けてしまった。
輸入盤で見つけた前月に日本盤が出ていることすら知らなかった。はらほろひれ。

さて、これは単なる記載ミスかどうか。あらためて考えてみると、CDの製造のほうが間違いという可能性だってある。
発掘にあたり、AB面があるアナログ盤とちがって、CDでは通しで聞けてしまうので、曲順を再考したのかもしれない。
にもかかわらず、製品化するときに、マスターテープの順序のまま入れてしまったのかもしれない。
いちど、CDブックレットに記載されている通りに、聞いてみましょう(暇なやっちゃなーって笑う声が聞こえてきそう)。
 

B.  "OUT" LP version  2 (Voiceprint VP165CD)
cd-program: 2-3-4-10-1-5-8-7-6-9-11-12

1. A Thousand Ships
2. The River
3. Please Go
4. The Pilgrim
5. Stitch In Time
6. You Tickle
7. Dreams Of His Laughter
8. Johnny's Dead
9. Lover Or Mine
10. Driving Blind
11. Catch A Falling Star
12. Wrong Again


並べなおそうとして、あらためて思いましたが、これが単なる記載ミスだったら、でたらめにも程がある。
この順番には、わたしには計り知れないけれど、きちんとした意図があった、と善意に解釈したい。
(日本盤では、このあたりのこともちゃんと解説されているかもしれません。)
 
 
※材料の内訳

"OUT" (Voiceprint VP165CD)  (c)/(p) 1997
1. Stitch In Time
2. A Thousand Ships
3. The River
4. Please Go
5. You Tickle
6. Lover Or Mine
7. Johnny's Dead
8. Dreams Of His Laughter
9. Driving Blind
10. The Pilgrim
11. Catch A Falling Star
12. Wrong Again

目次に戻る
 

(c) 2000 Kijima, Hebon-shiki