1972年11月〜12月
ケント大学時代に知り合ったケヴィン・エアーズのバッキング・バンド、デカダンス
に参加し、エアーズのフランス・ツアーに同行する。フォンテンブローでのライヴで共演したゴングのデヴィッド・アレンに興味を持ったヒレッジは、エアーズのツアー終了後にデカダンスを脱退し、ゴングに加入した。
エアーズとの共演は2ヵ月の間だけだったが、1973年5月に発表されたエアーズのアルバム、"BANANAMOUR"
(Harvest EMS1124)にはゲスト参加し、"Shouting in a Bucket Blues"でリード・ギターを弾いている。このリードギターが素晴らしかったためか、アルバム発売前の4月にBBCラジオに出演した際、本来なら番組用に録音したものを用意するところ、この曲に限り、アルバムバージョンがそのまま放送された。
1972年12月
Giaccomo なるレーベルから発売されたゴングの
"CONTINENTAL
CIRCUS" (Philips 6332-033) の復刻CDに、ボーナストラックとして、「1972年録音」のライヴ演奏で、"Blues
For Findlay" と "Flying Teapot" が収められている。フランシス・モーズが作曲した
"Flying Teapot" を演奏していることから、1972年暮れに録音された可能性もありますが、ヒレッジ加入後のものかどうかは不明。
わたしは、この
"CONTINENTAL
CIRCUS" 復刻CDはブートレッグではないかと疑っています。"CONTINENTAL
CIRCUS" は、曲名にも出てくるバイク・レーサー、ジャック・フィンレイを追った記録映画のサントラ盤ですが、レーベル名の
Giaccomo とは、そのフィンレイと1970年のグランプリを争ったチャンピアン、ジアッコモ・アゴスティーニの名前です。"CONTINENTAL
CIRCUS" には、フィリィップスからライセンスを受け、デジタルマスタリングされたマントラ盤の復刻CDもありますが、先に触れたボーナストラックは収録されていません。
1973年1月
ヒレッジの参加を得て、ゴングが「レイディオ・グノーム・インヴィジブル」3部作の第1部となる"FLYING
TEAPOT" (BYG 520 027/Virgin V2002)を録音する(発売は5月)。ヒレッジは、スティーヴィー・ヒルサイドとクレジットされ、spermguitar
と slow whale を担当している。ちなみにsperm whale はマッコウ鯨のこと。ヒレッジの持つギター(ストラトキャスター)からの連想と思われる。
ただし、メンバーとしてクレジットされているものの、このアルバムでのヒレッジは、あくまでもゲストと言ってよいと思います。
「レイディオ・グノーム・インヴィジブル」3部作は、ゴングのリーダー、デヴィッド・アレンが別世界「惑星ゴング」における魂の遍歴を描いた神話を音楽化したもので、ゴングというバンドはその神話の語り部という設定になっています。メンバーが変名でクレジットされるのは、神話の登場人物でもあるからです。
Radio Gnome Invisible(見えない電波の妖精)そのものは、惑星ゴングでのコミュニケーションをつかさどるメディアのことですが、「ノーム」ではなく、「グノーム」と発音することについては、大里俊晴氏が、「radiogramme」(X線)のもじりではないかと示唆しています。
1973年2月
"FLYING TEAPOT" の制作中に、主要メンバーである初代サブマリン・キャプテンことクリスチャン・トリッチ
(bass)がアレンと対立、ゴングを脱退した。続いて、フランシス・モーズ (bass)、ラシッド・ハウリ
(percussions) 、ローリー・アラン (drums) が抜ける。
アレンは、マイク・ハウレット (bass)
とピエール・ムーラン (drums) にゴングへの参加を要請。
1973年3月
デイヴィッド・アレンがパートナーのジリ・スマイスとともに一時的にゴングを離れ、スペインのマジョルカ島で静養する。
主要メンバーが次々と離脱していくなかで、残されたティム・ブレイク
(synthesizer) とディディエ・マレエブ (sax) はうろたえたらしいが、ブレイクによれば、ヒレッジひとり、アレンの帰還〜バンドの存続を疑っていない様子だったそうです。人の好さがしのばれるエピソードです。
アレン不在のまま、新メンバー、マイク・ハウレット
(bass) とピエール・ムーラン (drums) が加入。5人で、5月にかけて「パラゴング」として演奏活動を続けることになった。ハウレットの代わりに、のちに、"SHAMAL"
で正式メンバーとなるジョルジ・ピンチェフスキー (violin) が参加することもあったらしい。
ソフト・マシーン作品やR&Bなどをレパートリーとしていたと伝えられていましたが、1995年に、フランスでのライヴ録音が
"LIVE
'73" (Gas A GAS CD 002) として発売されて、一部が聞けるようになりました。曲名や作者クレジットはかなりいい加減ですが、ゴングの
"Fohat digs Holes In Space" とソフト・マシーンの "Why Are We Sleeping ?"
を元にしたジャム演奏が収められています。
1973年5月
ゴングが再編される。5月にパリのバタクランで行った演奏が録音され、一部が6月12日にBBCで放送された。この録音は、"LIVE
ETC." (Virgin VGD3501、1977年8月発売) 、"LIVE AU BATACLAN 1973"
(Mantra 025)、"THE PEEL SESSIONS" (Strange Fruit SFR CD 137、1995年発売)
に収められているが、"LIVE ETC." (Virgin VGD3501) では、何故かソロ部分の一部がカットされている。
また、6月12日に放送されたもののうち、"Radio
Gnome Direcct Broadcast" と "Crystal Machine" については、バタクランでの演奏かどうか不明。ちなみに、"Radio
Gnome Direcct Broadcast"は、デヴィッド・アレンの "DEATH OF ROCK &
OTHER ENTRANCES" (Shanghai HAI 201、1982年発売) のCDにボーナストラックとして収められている
"Radio Gnome Concert Intro Loop" とほぼ同じもの。
1973年6月
チュニジアのタバルカで開かれた野外フェスティバルに参加したときの録音が、グリージー・トラッカーズから1974年1月に発売された2枚組アルバム
"LIVE
AT DINGWALLS DANCEHALL" (Greasy Truckers GT 4997) に収められている。このタイトルと内容が一致しない奇妙な企画アルバムでは、ヒレッジは、Stevie
Hillside-Village とクレジットされている。
"General Flash Of The United Hallucinations"
は、"Zero The Hero & The Witch's Spell" などの即興的な間奏部分をコラージュしたもの。ゴングのライヴを紹介するフィルムのサウンドトラックのような印象すら受ける不思議な編集になっています。
余談になるが、このライヴアルバムに収められているグローバル・ヴィレッジ・トラッキング・カンパニーには、のちにスティーヴ・ヒレッジ・バンドに参加するジョン・マッケンジー
(bass) が在籍していた。
1973年6月〜9月
6月〜9月にかけて行われたライヴやラジオ出演時の録音が、"LIVE
ETC." (Virgin VGD3501) に収められている。クレジット上では確認できませんが、9月のライヴに、ジリ・スマイスは参加していないらしい。
1973年6月25日
ロンドン、クィーン・エリザベスホールでのマイク・オールドフィールドのコンサートにギタリストのひとりとして、ヒレッジが参加した。オールドフィールドの
"TUBULAR
BELLS" を生演奏するという試みで、ケヴィン・エアーズやデヴィッド・ベッドフォードらかつての先輩、フレッド・フリスらレーベルメイト、さらにピート・タウンゼントやミック・テイラーといった豪華なゲストが参加した錚錚たるものだったらしい。写真は数葉見たことがありますし、フィルムがあるという話を読んだ記憶もある。いつか発掘を期待したい。
ミック・テイラーと言えば、1975年にローリング・ストーンズを彼が脱退したとき、その後任として噂された人物の中に、ミック・ロンソン等とともに、ヒレッジの名もあったらしい(メロディ・メーカー誌による下馬評)。テイラーはピエール・ムーランとも交流があり(テイラーの1979年のソロアルバム
"MICK TAYLOR" のB面は、ムーランズ・ゴング好きにもオススメ)、ギタリストとして、ヒレッジと近いものがあるのかもしれない。 |