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2018年6月10日〜2018年6月16日


6月10日(日) 【▼ぐりぐらメモ/2018年6月10日】
 早朝、頭士奈生樹さんの『IV』をやっと聞いた。例によって、最初はスピーカーで鳴らして聞きたい、と思っていたら、なかなか時間が取れず。びりびりと響く、低く唸る音やところどころ擦れた、太くてなめらかな墨の線を思わせるギターを聞くと、ちばてつや『あしたのジョー』の「肘を左わき下から離さない心構えで、やや内角を狙い、えぐりこむようにして打つべし」という台詞を思い浮かべてしまった。別に何かと闘っている訳ではないけれど、的確であろうとする強い意志が漂っていて。ルーパーには厳しい(と言うか、うまく使うのが難しいと思う)ので、低く唸る音に対置されるきらきらした音がそのようにして出されると、はらはらしてしまって、ちゃんと聞けない。先日のライヴのときは、それを、渚にてのキーボードの吉田さんが担当していたことで、呼応していたのかな、とも思う。

 台風が近づいているといっても、まあまあ穏便な天候だったけど、家の用事のうちのひとつはアテが外れ(そろそろ来るはずの通知が土日のため来ていなかった)、午後から出かけた行き先のひとつは休みだった。そこに向かう電車の中でようやく確認する、という呑気さゆえの失敗なので、しかたがない。交通費がかかる場合は、できれば用事を二つ三つ重ねたいと思うのだけど、そのために無駄足を運んでしまった、というアブハチものがたり。歩き回るのが趣味なので、どうにでも転用できるのだけど。

 ひさしぶりに、マルビルの店に行ったら、またレイアウトが変わっていて、困惑。通路をはさんだ向いにあった本と雑誌のコーナーが中に移動。まだ変更中だからだと思うけど、通りにくいところも多々。レイアウトが変わったことでいろいろ見つけられず。

 地下から地上に出たら、本格的に降り出していた。ひさしぶりに「ディスクユニオン」に。ここでも、ここにあったら買おうかなと思っていたものがいろいろ見つからず。過剰在庫対策だと思うけど、すぐに店頭品切れになる印象がある。アナログ盤を見ていたら、いきなり知らないひとにわきから手を挿し込まれた。驚いて避けたら、そのひとは「すみません」と言いながら、レコードをめくる手は止めなかった。困惑。あそこは、手前に新入荷が分散していて、そこだけをチェックしたかったのに、わたしが奥の盤をいちいちひっぱりあげていたのが耐えられなかったらしい。そんなことで見境がつかなくなってどうする。げんなりして、そこでアナログ盤を見るのはやめて、CD棚から、オスカー・カストロ、アニタ・ヴァレッホ、ピエール・バルー "AU KABARET DE LA DERNIERE CHANCE"(ラスト・チャンス・キャバレー)を。対訳のついたポリスター盤。

 18時から、西村哲也さんの『Trickster Sessions』発売記念インストアライヴ。通りすがりにたまたま聞いたテイで聞いた。試聴、ということになるのだけど、試聴はできるだけ避けたい、ということについては、「雲遊天下」で書いた。何かを見つけてやろう、という気なしで、何か見つかればいいな、という実験のようなものです。アコースティックギターの弾き語りなのだけど、アルバムにも参加しているほりおみわさんがコーラスで参加。西村さんの歌は少し苦手なところがあるのだけど、おふたりの声が合わさると、とても良かった。特に最後に演奏された、ほりおみわさんの声を念頭に書かれたという「逢瀬」が良くて、購入することに決めた。

 『Trickster Sessions』は、ジェネシスを意識して、と話されていたけれど、11曲で一つの物語を追う形で構成されている。モチーフになったのは、ゲーテの『ファウスト』とのこと。本のページをめくったり、ひっくり返したりしているような展開の「彼女の愉しみの選択」、つんのめる心をぐいっと引きとめる「光の庭」、「逢瀬」はバンドだと、初期のジェネシスやファミリーを思わせる。「妖精の指輪」のアンサンブルも好きなかんじです。
 おまけで、デモを9曲収録したCD-Rと、インストアライヴ記念として、カバー5曲が入ったCD-Rをもらった。カバーされた5曲は…全曲うちにもあるやつで…イントロ当てクイズでも正解が出せるやつ、でした。いろいろ支障もあるかもしれないので、イニシャルトークで、B、RS、TR、Y、10。最後のはかなり絞られると思いますが。

 行き帰りに、壇一雄「花筐」。小説では、早くに美那は亡くなり、そのことを受けて、おばと吉良は消えるように思える。鵜飼は取り残されるのだけど、大林さんたちはそう長くはないことを読みとったのだろうか。榊山もなんとなく取り残されているようなかんじになっている。あきねは途中で出てこなくなるし、千歳は消えるところが描かれていない。当時、どのように読まれたのだろう。

6月11日(月)
[一回休み]
6月12日(火)
[一回休み]
6月13日(水)
[一回休み]
6月14日(木)
[一回休み]
6月15日(金)
[一回休み]
6月16日(土) 【▼ぐりぐらメモ/2018年6月16日】
 先週に引き続き、仕事は一応順調です。順調と言うか、突発作業が発生していないので、長期課題に粛々と取り組んでいる、次第。個人活動のほうも、長らく手が付けられなかった作業に取りかからねば。しばらく老母の爆音テレビ上映を避けて、別室に籠もることも考えているのだけど、気は引ける。爆音上映に付き合っても、耐えられなくて眠ってしまうので、居ないも同然なのだが。

 月曜日と火曜日は雨。雨の月曜日、仕事終わりに、天満橋のギャラリー「14th moon」に寄って、「凸凹書房展」を見てきた。さかたきよこさん、タダジュンさんら版画家のグループ凸凹による文芸誌「凸凹」に掲載された作品を中心とした展示。タダジュンさんのポー全集表紙、さかたきよこさんの小さく凝縮された風景、アンドーヒロミさんの闊達な形、本の表紙などで見かけていた芳野さんの布のような感触の絵など、心惹かれる作品がいくつもあったけれど、それらを見たあとでは、モノクロで印刷された「凸凹」誌が物足りなく感じられて、見送ってしまった。すみません。代わりに初めて知った平岡瞳さんの作品集『ゆき』を購入。青白い夜の景色、雪、目を凝らすと見えてくるような雑木林や山がよいです。文章が付いているのもいいし、素描が収録されているのが、デモ録音のようで楽しい。別の角度から眺める心持ちがする。

 京阪電車の「天満橋」駅では、足りない分だけ補充できるICカード補充機が置かれていて、うれしくなった。これよ、なんだかなぁと思っていたのは。JRが500円単位だったのも少しだけほっとしたけど、1000円単位でしか補充できないことに納得できないでいた。最後に残ったら払い戻してくれるのだろうけど、健康な状態で最後なんて来るのか。列車のカードと縁が切れるのは動けなくなったときではないか。

 天満橋で面白かったもの、もうひとつ。出たところのスクランブル交差点は人と車を分離するタイプで、斜め横断ができるのだけど、横断歩道が途中で切れていた。そこから先の無軌道感が楽しかった。崖から飛び立ったような、そんな気がした。

 帰宅すると、森田童子さんの訃報。4月に亡くなられていたそう。身近なひとには、「森田童子だった」ことも明かしていたそうだけど、メディア上には再登場されることなく。歌ったり、姿を見せたりということはなくても、言葉の作品の発表はあるように思っていたのだが。活動当時、プロフェッショナルなスタッフに支えられていたはず(でなければ、ラジオしか伝手がない中学生の耳に届くはずがない)なので、これから、再構成が行われるかもしれない。思い入れでも暴露でもなく、活動の記録がきちんとまとめられるといいなと思う。

 木曜日。来るべきものが来なかった、り、もやもやしたものがあった、ので、思い立って帰りに途中下車して、「イオンシネマ」に。大規模公開されている作品だと、「帰りに映画館に寄る」ことも可能性としてある。18時45分からの『万引き家族』に。「イオン」の入り口で、「イオンシネマ」は水曜日に割引があると知り、まだやってるだろうから出直そうかと行ったり戻ったりしていたのだけど、せっかく時間ができたのだからと見ていくことにした。ら、券売機で、年齢割引があることを知った。対象に入ってる。700円も割引される。のだけど、躊躇してしまい、3回やり直した。認めたくないものだな、という訳ではなくて、なんちゃらカードに登録しとかなあかんとかそういうのがあるかもしれないと思い。しかし、券売機はスムーズに発券し、一応、免許証を手にしていたからか、ゲートもスムーズに通れた。
 是枝裕和監督『万引き家族』。金は確かにそんなに無い、けれど、映し出されているのは貧困ではなく、行き場のなさだった。行き場のなさと、誰かを守ることのせめぎあいが描かれていて、それぞれが抱える哀しさもそれぞれで。彼らは身勝手なところもあるかもしれないけど、それを肯定も否定もしないで、行き場のなさからの救いという一点を描いていた。

 金曜日。仕事場を間借りしている事業場が有給休暇取得推進日で、担当の方々も全員お休みということ、開演が20時からということから、「なんとか間に合う」と踏んで、いつもすぐにソールドアウトになる池間由布子さんの五条「もしも屋」でのライヴに早めに予約を入れていた。前日、来なかったものも昼前に届き、定時までに目途も立った。ということで無事、定時7分後に離脱。19時過ぎには五条に着いた。食事を摂る時間も取れた。
 雨が降っていたので、そのことに触れながら、池間さんは歌い始める。「雨はやんだ」は、録音からアレンジが変わっている上に、いろんな間奏を織り交ぜていた。歌うことが楽しくてしかたがないといった、いたずらっぽさもある笑顔を見せながら。たぶん、演奏している間にもいろいろ見つけているのだと思う。その発見にまた楽しくなってしまうような。計り知れないけど、野生、を感じる。ピンと来るものが目の前を通りすぎると、がばっと思わず飛びついて、ぎゅっと抱きしめちゃうよな。
 後半は甲田徹さんのエレクトリックベースとのデュオで。池間さんの音楽にいろんな種類の音楽が混ざっていることがわかる。アイドル歌謡に近いものすらある。それがはっきりする。リズムにノる表情、とてもよかった。伴瀬朝彦さんプロデュースの上野茂都さん、のような企画録音をちょっと聞いてみたい気もする。楽しかった。

 きょうは、午後から、天神橋3「なかい山」で行われている「山びこショー」、大谷氏 with とっちゃんと野崎ハウス。この組み合わせをチラシで知ったとき、「絶句するしかない」と楽しみにしてた。最初に、泊などで活動されている武村篤彦さんとゆりさんの夫婦デュオ、野崎ハウス。世界各地の歌を、日本語化。思いが先走って、それを追いかけているような演奏も相俟って、鄙びた味わいになる。待望のアルバムが完成、ワールドカップサッカーを見ながらダビングしました、と持ってこられていたのだけど、それが架空の温泉地のおみやげという体裁のカセットテープ。『美しい奥湯田温泉』。鄙びてるなー。前に聞いて、とても気に入った「ベンセニうぬくとぅん」も入ってる。うれしい。しかも(小声で)一本一本手打ち…じゃなくてダビングしたもので音がよくないからと無料配布なのでした。申し訳ないくらい。野崎ハウスを投げ銭で聞く機会があったら、そのとき多めに出します…。ベトナムの最新ダンス曲のカバーもよかったな。
 大谷氏 with とっちゃん。見慣れたものが、うっかり知らないところに飛び出してしまって、戸惑っているような、胸を張っているような不思議な佇まい。「セロテープ」は、やっぱりファンキーでかっこいい。ここんとこスライ&ザ・ファミリー・ストーンを聞いていたので(頭士奈生樹さんのライヴの開演前にかかっていたのがきっかけ)、そんな演奏も幻聴したりして。「なかい山」のおふたりも含めた6人での演奏もあったりして、面白かったし、楽しかった。
 「山びこショー」は、2オーダー込み。食事もできる。今日は昼を食べてから行ったので、軽いものにしたけれど、次に機会があれば、昼を抜いてカレーを食べるぞ。ショーのテーマ曲が開演を告げる趣向も楽しかった。

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2018 Kijima, Hebon-shiki