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2016年8月14日〜2016年8月20日


8月14日(日) 【▼ぐりぐらメモ/2016年8月14日】
 夕方近くになって、気晴らしに自転車で隣市にでもと思って出たのだが、行く手には暗雲がたちこめていて、どうやろなぁと思っていたら、ほどなくして、最初のひと雨をくらった。雷も発生していた。橋を渡る必要がある隣市行きは断念した。
 ただ、雨はすぐに止んだので、引き返さずに、「知らない道を行ってみる」趣味は続行。念のため、高架沿いの道を走って、どこまで行けるかな、と。でも、あまり間をおかずにまた雨が降り出し、雷もひどくなってしまった。雷は激しく、風は強く、雨は大粒で。
 雨宿りしながら、高架下を戻ったので、びしょ濡れにはなっていないけれど、なかなか止まなかったので、高架下から離れなければならないところで、ずいぶん長い間足止めされることになった。
 最初の雨にあったとき、引き返すという手もあったのだけど、強行したのは、どこか、夕立に遭ってこそ夏という感覚があるからかもしれない。

 テレビで『コクリコ坂から』を見た。映画を見ていないし、「ヒット」していたのでもないのに、手嶌葵さんが歌う主題歌はよく知っている。公開当時タイアップCMや宣伝CMで盛んに流れたからだろうか。不審に思って、積極的な関心はなかったのだけど、映画を見ておこうと思った。
 物語はわたしが生まれた頃の横浜を舞台に、共に船乗りの父を亡くしている少女と少年の出会いを描く。出会いのきっかけとなるサブストーリーが、二人が通う高校の部室棟の建て替え問題。建て替え反対運動の過程と少年の出生をめぐる探索が平行して進んでいく。正攻法の運動は理解のある大人によって解決する。出生問題は、そのことで悩んでいることが大人たちに知られることにより回答がもたらされる。大人の都合だけの話でもやもやさせられてしまった。
 手嶌葵さんは、歌っているのが映画の主題歌や挿入歌、カバーが多いこと、目に触れる範囲のメディアでインタビュー等を見かけないことから、キャラクターがつかめないでいる。でも、声は好きなのだと思う。鍼灸院でときどきかかっている映画由来のスタンダード集という趣きのレコードがよくて、その中で聞いたことがあるけれどタイトルが思い出せない歌があったことから知ってる曲を覚えておいて検索して探したら、手嶌さんのアルバムだった。思い出せなかったのは、映画『緑の館』の中でアンソニー・パーキンスが歌う歌。この映画はテレビで見たのは確かだけど、この歌がそんなにも強い印象を残していたとは自分でも気付いていなかった。アンソニー・パーキンスの歌はレコード化もされていないらしい。思い違いの可能性もあるけれど、ともかく、そうして彼女のアルバムを聞いた。まだ謎のひと、ではある。
 そう言えば、映画を見るきっかけになった謎。主題歌は、もともと森山良子が歌っていたテレビドラマ主題歌のカバーらしい。それで聞いてたから知ってたのかなぁ。これまたそんなにも強い印象を残していたとは。手嶌さんの歌は、そうした錯覚をさせるところがあるのかもしれない。

 友達がリンクしていた「CINRA.NET」の記事「佐々木敦が語るHEADZの20年と、変化してきたライブハウス文化」の最後のところで、佐々木氏が「今小中規模のイベントを成功させる要因は、出演者および主催者の交遊関係だけ。つまり、友達が多いやつは友達が来るから、それで成立しちゃう。その場に来る理由の第一義が音楽じゃない方が、むしろ集客って意味では磐石なんですよね」と言い、それを受けて「HEADZ」の萩原孝文氏が「昔はいいライブを見ても、それを友達と共有したり、ミュージシャンに「ファンなんです」って言わずに、内に秘めて帰ってた。でも今は「ファンなんです」って知らせたがるんですよね」と話されている。これはずいぶん前から、「円盤」の田口さんが指摘していることだけど、「それに対する危機感は強い」としながら、現実問題としてはどうこうということは話されていない。
 「ファンなんです」って知らせたがる、のは苦手。ええで、と不特定多数が見るところで書けば、知られてしまうのはしかたがないけれど、できればそっとしておいてほしい、というか、作り手は、ああ、そうなんだ、くらいでいいんとちゃうかな。好きだ、というくらいなら。共働作業が発生すれば、その点でのつながりはあるとしてよいと思うけど、音楽を聞いて好きだという点では、いつも来てるひとも初めて来たひとも来たことはないけどレコードは聞いているひとも変わらない。変わらない立場で聞ける場にしておきたいと思う。「その場に来る理由の第一義は音楽」であるひとが居心地のわるい思いをしないように。

8月15日(月)
[一回休み]
8月16日(火)
[一回休み]
8月17日(水) 【▼ぐりぐらメモ/2016年8月17日】
 仕事場が閉まっているのでいたしかたなく、の有給休暇二日目。きのうときょうは呼び出しがあったら出られるようにもしてあったのだけど、午前中に呼び出しもなかったので、昼から出かけることにした。 京都市九条大宮「京都みなみ会館」へニコラス・ローグ監督『地球に落ちて来た男』を見に。今回のリバイバル上映は、「みなみ会館」が配給権をとって行われているということもあり、応援の気持ちもあり、「みなみ会館」で見たかった。公開当時ではないけれど、その少し後にイベント上映で見ているし、DVDも持っているけれど、今回は初公開当時カットされた部分を含むいわゆるディレクターズカット版での公開ということもあった。

 「京都みなみ会館」は、プログラムがいいのだけど、阪急沿線からは行きにくい。JR京都駅から近鉄に乗り換えて一駅ということにも納得しがたいものがあった。しかし、それはいつも時間ぎりぎりに行ってるからであって、歩けばよいのだ。位置関係を確かめていなかったこともあり、早めに出て、歩くことにした。

 『地球に落ちて来た男』は、断片的で脈絡のわからない場面の積み重ねで作られていて、物語はなんとなくでしかわからないところがある。ディレクターズカット版ということが頭にあったからだけど、ここ知らんかった、初めて見たという場面がたくさんあった、ような気がして、なるほどそういうことかと思ったり、謎が深まったりした。それに、場面の順序を間違えて覚えていたところもあった。これはそのような編集になっているからと言えなくもない。

 以下、覚えている限りで「記憶していなかった」場面。●トーマス・ジェローム・ニュートンが地球に到着して活動を開始したときに、それを眺めている男がいる。●手始めに指輪を換金したのち、川の水をそのまま飲む。●弁護士ファンズワース邸の玄関。●ブライスの元に、別れた家族からブリューゲル「イカロスの墜落のある風景」を含む画集が届く。●エレベーターで気を失うニュートンを介抱する場面に挿入されるブライスの複数の学生との情事。●メリー・ルーがニュートンを連れていく教会の全景。●ニュートンが湖畔にかまえた自宅の日本趣味。●球形の録音物。●ニュートンとの会見の前夜、釣りをしているプライスのところにあらわれるフードを被ったニュートン。●ワールドエンタープライズ社のCMにニュートンそっくりの人物が写っていることと、その映像をニュートンが故郷の星で見ていたような場面。●ニュートンの正体を知ったメリー・ルーが失禁したときの足元。●ファンズワースらが暗殺されたあと、政府側によってワールドエンタープライズ社の社長に仕立て上げられる男のリッチな生活。●監禁され、酒に溺れ、ベッドに横たわるニュートンを見つめる男。●年老いたブライスが入ったレコード店に、『ヤング・アメリカンズ』がディスプレイされていること。
 (帰宅してから、廉価版で出たときに買ったDVDを見直したら、ほとんどの場面が既にあった。公開当時119分、DVDは133分、今回は139分ということなので、公開当時の記憶と比較しているのだと思いたいけど、確かめることができない。DVDは、場面確認のために断片的にしか見ていなかったから、追加された場面を飛ばしていた可能性もある。)

 フシアナにはちがいないけど、新鮮な気持ちで見ることができたと言えなくもないし、DVDだったら飛ばしてしまう場面(ツトム・ヤマシタ "Memory Of Hiroshima" が流れるラブシーンなど)をじっくり見ることができたのも良かった。音も。撮影時には、ピンク・フロイドの "THE DARK SIDE OF THE MOON" を流していたという話を最近になって知ったけど、ツトム・ヤマシタの音楽を起用したのはその代用の面が大きかったような気がする。

 帰りに、京都のどこかに寄って帰ろうかと思ったのだけど、ルートを探すのが面倒になってしまい、JR京都駅までまた歩いて戻って、そのまま帰ることにした。それにしても、イオンはどこの街でも城壁のように思える。立ちはだかって、向こうが見えないし、周囲も長い。
 帰りに、島本駅で途中下車して、歩いて、阪急水無瀬駅まで。「長谷川書店」に寄る。店に入ったはいいが、何を買おうと思っていたのか忘れてるということが多くなっている。メモしておけばいいものをしないのは、店に入ったら思い出すし、見つけられるという若い頃の記憶にもとづく過信があるからだけど、思い出させてくれないことも多くなってきた。店にあるのがわかると、店が覚えておいてくれたような気持ちになる。タイトルや感想から気になっていた岸政彦『断片的なものの社会学』があったので、購入。あわせて中村佳穂『どこまで』『GATAGOTO SONG NIGHT SONG』も。

 リオデジャネイロオリンピックは、バドミントンと卓球は見てます。

8月18日(木) [一回休み]
8月19日(金) 【▼ぐりぐらメモ/2016年8月19日】
 9時29分「新大阪」発の新幹線「のぞみ」で広島へ。西日本へのひさしぶりの新幹線ということで、「のぞみ」でないのが望みだったのだけど、希望の便は満席で取れず。検札が済まないと、安心して居眠りできないので、はよ来ないかなと思っていたのだけど、新大阪、新神戸、姫路を過ぎても、検札はなく、廃止されたのだったかとようやく思い当たった。10時55分「広島」着。

 今回の広島行きは、「文化庁メディア芸術祭広島展」の一環で岸野雄一さん制作・出演の音楽劇『正しい数の数え方』が上演されることがきっかけ。
 道に迷いやすいので、とにもかくにも現地確認ということで、昼食もとらずに、駅前の案内所で路線地図をもらって、路面電車(広電)の2番線に乗り込んだ。会場は「こども文化科学館」。原爆ドームの近くにあるという。「原爆ドーム前」までは路面電車で約20分。初めて間近に見る原爆ドームは思っていたよりも低い建物で、外の壁が落ちて、中が剥き出しになっていることで、在りし日の姿との対比を思わせた。
 付近は庁舎や県市の施設が並ぶ地域で、ひろびろとした公園でつながっている。もらった地図に「こども文化科学館」が載ってないことで焦ったけど、事前に確認した方向に歩き出したら、表示が見えた。工事用の塀に沿って歩いていたら、それが旧広島市民球場跡であることを知った。スタンドがわずかに残っているだけの更地だけど、中に入れるとあったので、しばし中で過ごした。
 とかやっていると、案の定、「こども文化科学館」を見失って、総合体育館まで出てしまい、引き返したら、「SLが置いてあるなぁ」と思って眺めていた建物がそれでした。確認してから、改めて付近を歩き回っていたら、すぐに開場時刻になった。
 
 なんといっても、金曜日の昼なので、場内はちびっことお母さんたちでいっぱい。肩身狭い。『正しい数の数え方』は作り込まれた映像と会場で撮影された映像、岸野雄一さん、JON(犬)さんのアドリブを交えた実演を組み合わせて、問いかけに答えたり、いっしょにからだを動かしたりして、やりとりして、物語の中に入って、楽しむ趣向。川上音二郎に扮した岸野さんの「どうすればいい」という問いかけに、ちびっこたちが思い思いに答えていて、いいなぁ、と思った。岸野さんもJON(犬)さんもいつもと変わらない。「正しい数の数え方」という歌で歌われている勘定することでひとつひとつをone ofにしてしまうことに対して、ひとつひとつをそれぞれとして数えるやり方が鍵となっている。オトナ向けのパフォーマンスと同じテーマ、考えかた、メロディ。つまり、わかりやすさに寄せていないのだけど、終わったあとには、ちびっこたちが熱狂して周りに集まって、さわったりハイタッチしたり握手したりしていた。いっしょに答を探したり、考えたり、跳ねたりしたからやろな。にこにこしてしまった。

 『正しい数の数え方』を見たあと、遅い昼食をとったのち、平和記念公園内の資料館に。海外からの観覧者も多く、混んでいた。原爆の幾重にもわたる破壊力をそれぞれの角度から検証した展示。写真撮影可とのことだけど、撮る気にはなれなかった。身に起きることを想像することを感じていたから。
 放射線障害については、落とした時点ではアメリカ側にもあまりわかっていなかったのでは、という見方は好意的に過ぎるだろうか。見えないことが恐ろしい。いまだに、見えないことをもって、ないことにしているような気がしてしかたがなかった。抑止力と言うときに、放射線障害の恐怖は除かれているのではないか。一瞬で死ぬ、焼ける、壊れることは恐ろしい。「病」がもたらされることは、それらとは別の恐ろしさだと思う。

 旧「日本銀行広島支店」での「文化庁メディア芸術祭広島展」を見たり、大きな書店やレコード店を覗きながら、歩いて広島駅近くの宿に向かった。あまり情報は得られず。広島のひとがカープ好きなのはよくわかった。暑くて、歩くだけでせいいっぱいで、目が向いていなかったかもしれない。

 今回はカプセルホテルの予約がとれず、昔ながらの旅館。たどりついたときは、暑さにぐったりしてしまい、食事のため外に出る気も起こらなかったのだけど、控えておいた中古盤店の住所を見たら、近くであることがわかり、なんとか気力を振りしぼった。店は二階に分かれていて、日本ものの一階ではビジュアル系が、洋ものの二階ではヘビーメタルががんがんかかっていて、それらに耐えながら棚を見ていたのだけど(改めて、わたしはそれらが苦手であることを自覚しました)、新譜が混ざっていたり、人気アイテムにはそれなりの値をつけてあり、見ても甲斐がないなと思っていたところへ、無表情に「閉店なんで」と告げられた。しゅーん。
 食べるところを探しながら歩いていたら、もう一軒アナログ中心の店があった。そっちから見ればよかった。もう少し歩けばもう一軒あるはずなので、そこにも行ってみたけれど、見あたらなかった。戻ってから調べた、その店は移転していた。

8月20日(土) 【▼ぐりぐらメモ/2016年8月20日】
 広島二日目。朝いちばんで帰りの切符をとり、前日閉店後に前を通りがかった中古盤店を覗いてから、よく名を見かける場所を訪ねて歩き回ってみることにしたのだけど、とにかく暑くて、歩き回るという計画は失敗でした。「広島国際アニメーションフェスティバル 」で映像作品を見たり、呉市立美術館でのこうの史代「この世界の片隅に」展は時間が読めず諦めたけど、どれかひとつに絞って行ったほうがよかったかもしれない。

 原爆ドーム近くの「READAN DEAT」での田口美早紀さんの「This is Sports.」展は面白かった。審判がセットで描かれていることが、何故か、スポーツのファニーな面を引き出しているようで。昼食はその近くの「十日市アパート」(「ヲルガン座」1階)で。

 横川駅まで歩いて、さらに歩いて広島駅に戻ると、ちょうど試合があるということで、カープファンが大挙して押し寄せているところに遭遇。駅前ビルにもそこここにカープコーナーがあるし、広島のひとたちがカープを熱狂的に応援しているということを実感しました。

 帰りは当初の望みどおり、17時47分発「さくら」で。19時36分に「新大阪」着。家に着いて、来ていた黒いTシャツを脱いだら、塩の道ができていた。

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2016 Kijima, Hebon-shiki